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2024年04月27日  01時19分
一周年&一万年企画
CATEGORY : [詩/ネタ]
その2でございます。






右手に鏡を、左手に刃を握り締め、私は目の前に立ちすくむあなたを睨んだ。

―――どうして、そんな笑みで、いられるの?

あなたは口元にかすかな笑みを浮かべて、あの眼差しで私を見つめていた。
高度は地上十階。風がびゅんびゅんと耳元をすり抜け、いらずらに私の亜麻色のセミロングの髪と、あなたの黒髪を巻き上げる。
ぶるり、と身震いすると、あなたは、ははと声をあげて笑った。

「寒いの?」
「武者震いよ。」

そう、と軽く頷いてあなたはゆっくりと目を伏せて私に一歩近づいた。

「動かないで!――それ以上私に近寄らないで!じゃないと、私…私、あなたを…!」
「…いいよ。君に、僕を殺らせてあげる。」

私は目を見開いてあなたを凝視した。伏せた目を持ち上げ、あなたは真っ直ぐな黒い瞳で私の目を見つめる。――どうして、どうして…?!
私の頭の中は"どうして"という言葉で埋め尽くされた。どうして、この人を殺さないといけないの?

「――それが、世界を救うと信じている愚かなヤツらがいるからさ。だから、君の心が犠牲になる。――僕を大切に想っている心を知っているから。」
「!」

あなたはまるで私の心を読んだかのように、今まさに自問した問いに答えた。私は自分でも吃驚するくらい過敏に頬を赤くした。

「…じゃあ、なんで?!どうして、そんな事言うの?!私があなたの事…!」
「だからだよ。」

だからなんだ、とあなたはもう一度言った。
私の視界がだんだんと歪む。それをごまかすように何度か瞬きを繰り返したのが悪かった。目から零れ落ちた雫は頬を伝って、風に舞う。それを見たあなたは眉を寄せて、悲しそうな表情になった。

「ごめんね。でも、僕は信じてるんだ。君が、僕がいなくても、一人でも大丈夫だって…信じているんだ。」

嘘よ、という言葉をつむぎだす前に、私の唇はふさがれた。
ゆっくりと口内に侵入する生暖かいものを受け止めながら、私は目を伏せる。内側をなぞられて背筋がざわざわした。そのとき、左手がぬるりとすべる。私は目を見開いてあなたから離れた。

「な、なんで…!」
「こ、こうでもしないと、き、君は、僕を、殺せな、い、だろう?」

あなたの身体に深く突き刺さる刃。私の左手は真っ赤で、彼の体から知が滴る。あなたはうっすらと笑みを浮かべて私を見ていた。
とめどなく、私の目から涙が零れる。どうして、そんなになってまで笑っていられるの?!

「あなた…絶対、アホだよ…。」
「心外だな。これ、でも、僕は、き、み、より長、生きしてるはず、な、んだけど。」

カランと、刃は地面に転がった。同時に右手の鏡も手をすり抜け、ガシャンと地面と衝突し、粉々に砕け散った。

「こ、れは秘密、だったん、だ、けどね、僕は、死な、ないんだよ、」
「な、何アホなこと言ってるの?!だって、こんなに血が!」

フフ、とあなたは血まみれの手で私の頬を数度撫で、にこりと笑みを浮かべた。

「来世で、待ってるから。君は、ちゃんと現世を生き抜くんだよ、」

寿命まで。
あなたそういって目を閉じた。あなたの身体は突然糸が切れたマリオネットのように、地面に崩れ落ちる。
私の嘆きは絶叫となって、ビルに木霊した。

それから私はどうやって移動したのか覚えていない。
気づけば目の前に海原が広がっていた。
一人、呆然と海を眺めている。
あなたの最期の言葉が耳から離れない。
それが、あなたの望みなら、私は叶えなければいけない。

「私は一人でも歩き続けるから、だから、その日までずっと見守っていて。」

――破ったら、たぶん、許さない。

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2008年09月11日  00時38分
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